
この兎さんは、蒔絵技法の一つ、卵殻(らんかく)で描かれています。因みに兎の赤い目は貝殻を薄く加工して張り付けた螺鈿(らでん)と言う技法でできています。蒔絵と言うと、金、銀、プラチナ粉を蒔きつけた絢爛豪華なものを思い浮かべますが・・・。 チタン粉、プラチナ粉・・・、今でこそ白色の顔料も実用化され、蒔絵に白い色付けをすることが可能ですが、かつて蒔絵には白を使うことができませんでした。白兎、白鷺などの動物、菊などの植物・・・白で表現したい図柄が沢山あるのに・・・当時発見され実用化されていた材料では、作った直後は白くても、時間が経つと化学反応で黒ずんでしまうものや、発色の悪いものばかり・・・。白を表現する良い素材がなかったのです。長く美しい色を保つ素材・・・白は蒔絵師たちの長年の夢だったんですね。蒔絵師たちが知恵を絞った結果編み出されたのがこの卵殻。文字通りうずらなどの卵の殻を細かく砕いて1枚1枚を漆で貼り付けていく緻密な技法。苦肉の策として生み出された卵殻技法には日本の物造りの原点を見る思いがします。